濡れ頭のまま行くのまずいかな思いつつもそのまま行った。つかつかと教官の執務室に
向かうと携帯がなり始めた。見ると和弥からでぶち切りした。そして落ち着いてノックし
てその中に入った。
「藺藤です。なにか?」
「ああ、おきたのか。体の調子は?」
「もう大丈夫です。ご心配をお掛けしすいません」
 律儀に頭を下げると少し目眩がした。まだ本調子ではないようだ。教官は執務室におい
てあるソファに腰掛けるように進めた。それの言葉に頭を下げて言葉に甘えそのソファに
腰掛け背を預けた。
「それで、本題に入るが、昇格の話だ。いや、もう要請だ」
「どこまで?」
「特別任務遂行班の内、一斑となれと」
「特別任務遂行班? またそんな上位に。何故ですか?」
 簡単に言うと水神の杜のことが評価されたのだと教官は言った。評価されるような事は
してないような気がするなと思ったが一つだけあった。
「早く任務を片付けた事ですか?」
 教官は罰だといっていたがあれはれっきとした任務であり、恐らく手が空かない教官が
都合よく理を犯した月夜達を使って任務の代行を行ったのだろう。それだと分かったのは
今になってからだが。そう言えば何度かそれのような言葉を言っていた気がする。
「そうだ。あれは三人一組だからな。科内を入れておけ」
「狸は?」
「私の秘書としてパシらせる」
 その言葉に冗談抜きで言葉を失った。この教官のパシリになったらどうなるのだろうか
と思ってしまった。だが、あの狸だったら大丈夫だろうと思った。逆にこっちの方がいい
だろう。暇さえあれば嵐と夕香にいじめられているのだから。
「平和的ですね」
「ああ。私だって仕事を増やしたくない。近くにいればあの狸のことを叱れるからな。あ
れは工作委員に向くかも知れん。私が覚えた技術を教え込む」
「教官も?」
「ああ、工作委員だったが特別任務遂行班にもいた。そしてこの職にね。引退した訳でも
ない。お前たちの休暇の合間を縫って私自身任務をこなしているからな」
 そうなんですかと頷いた。つまり、この教官は先輩という事だ。
「俺達の後に教え子はいませんよね?」
「なんだ気付いたのか?」
「じゃあ、教官は、俺達の先輩として?」
「ああ。教官を辞する。で、戻る。お前たちには優秀になってもらわないと困る」
「なんですか?」
 その問いに教官は肩を竦めた。豊満な胸が揺れる。月夜は何かを読もうとしたができず
にため息を吐いた。
「話はそれだけですか?」
「ああ。あと、近々引越しをするからそれの用意もしておけ。まあ、それだけだ。病み上
がりの所呼び出してすまない。日向と科内に宜しくな」
 月夜は一礼して部屋から出て行こうとした。が、ふと足を止めて教官に向かい直った。
「これからもよろしくお願いします」
 深く一礼すると失礼しましたと言って部屋から出た。月夜のその言葉に教官は驚いてい
た。
「ああ」
 その声は聞こえないだろう。だが、教官は答えた。その顔には誇らしげな笑みが浮んで
いた。



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